福岡市中部水処理センター(三菱化工機/福岡市)

福岡市民の憩いの場所である大濠公園から歩いて15分。金印で有名な志賀島を海の向こうに望み、東には福岡ソフトバンクホークスの本拠地である福岡PayPayドームが立地している、そのような場所に福岡市中部水処理センターはありました。

福岡市内には水処理センターが7カ所あり、福岡市内で発生する生活排水や工場排水が下水道管を通じて水処理センターに送られ、そこで様々な処理を行い、最終的にきれいな水にして海や川に戻されています。

そのなかでも中部水処理センターは最大規模の処理能力を有しており、ここで下水処理汚泥からの水素製造の取組みが行われていました。

下水汚泥を処理する過程で発生するバイオガスから水素ガスを製造するというもので、三菱化工機製水素製造装置で製造される水素の量は、1日で燃料電池車(FCV)65台分にも相当し、敷地内に併設されている水素ステーションからFCVへの充填が行われています。

また水素製造だけではなく、バイオガスから二酸化炭素も回収してボンベに充填することも行っており、その二酸化炭素は植物の促成栽培等に利用可能とのことでした。

 水素の製造と平行して、福岡市ではゴミ収集車や学校への給食配膳車へのFCVの導入を検討されています。福岡市では全国で珍しく夜間のごみ収集を行っており、騒音が小さい点や、時間的制約があるため航続距離に不安のない燃料電池車がフィットするそうです。また、給食配膳車は、学校に給食を運んだ後、回収までの数時間は学校内や近隣地での待機が必要となります。待機中はアイドリングストップが望まれるところですが、この猛暑において運転手の熱中症リスクを鑑みると、アイドリングしても水しか排出せず、電池切れの心配の無いFCVが向いているそうです。さらに子供たちへの環境教育の一環としても有意義とのことでした。 

このように、福岡市における水素を『つくる』『つかう』の取組みは、未来の日本の水素社会のモデルケースとなるポテンシャルを有しているのではと感じました。『つくる』という点では、国内製造していく上で再生可能エネルギーの賦存量が少ない、適地が少ないといった課題がありますが、都市部の下水処理場では、太陽光や風力等のように天候に左右されず、安定したバイオガスが発生し、安定した水素製造が可能となります。『つかう』という点では、日々安定した走行距離が期待できる商用車は、今後FCVにおいて普及が期待される分野であるため、水素の需要も安定すると思われます。 

水素の製造、利用、さらに未来を担う子供たちへの教育。全てが有機的にかつ合理的に結びついたこの取組みが、近い将来全国にも展開されていくのではと感じる訪問となりました。